川崎市麻生区の心療内科・精神科|新百合ケ丘こころのクリニック|生きづらい

生きづらい

生きづらい

最近、悩みを話しづらそうだったり、「苦しくてしょうがないけれど、それをことばにしづらい」、とおっしゃるかたが多くなった気がします。
症状や悩みが何かをつかみきれず、表現できないでいるのです。
そこで、診療の糸口を見つけ、共同作業の出発点を見つけるため、「どのような苦しみなのか?せめて片鱗でもつかめないだろうか?」と、ご一緒にことばを探してみるのですが、表現できることばが見つからないことがほとんどです。
結局、「生きづらい」ということばが、そのかたの感覚に比較的近い場合が多いように思います。
「何かよくわからないけれど、とにかくうまくいかない」、「よくわからないまま周囲からいやな思いをさせられる」といった表現なども含まれるでしょうか。

ご本人は相当苦しんでいて、社会生活から撤退したり、ひきこもったりしてしまうこともあります。周囲は本人の悩みや感覚をよく理解できず、困り果て、「なぜ」と問いかけますが、そう問われるのがつらくて、ますます本人はひきこもってしまう、ということもあります。

こういう悩みですから、原因は一概には言えません。
ただ、こういう悩みを抱えているかたの中には、得意、不得意の差が激しいかたがおられます。 誰にでも得意、不得意はあります。
しかし、この差が激しいと、想像以上につらさを強いられることがあります。
例えば、ことばというものはいろいろと役に立つものであり、うまく使えると、つらい感情をことばにしてうまく包みかかえることができ、感情のインパクトを和らげ、少しコントロールしやすくなります。
一方もし自分のことや、自分の感情をことばにするのが苦手ですと、つらい感情、感覚がことばに包まれることなく、そのままのインパクトで自分を襲ってくることになり、とても耐えられなくなります。
不思議なもので、こういうかたには、感覚的に繊細なかたが多く、中には例えば芸術方面で素晴らしい能力を示されていることも多いのですが、一方で音やにおいなどに人一倍敏感でつらい思いをされていることも大変多いのです。

またひとづきあい、というのは、誰にとっても難しいものですが、特にそれが苦手だと、思わぬところで、ひとに嫌な思いをさせられることがあります。
不満のはけ口にされやすくなるため、いじめにあいやすくなることがあります。
そういう思いをずっとし続けてきたあるかたが、絞り出すような声で、「ひとがこわい」とおっしゃったのを私は忘れられないでいます。

悩みが漠然としていて、うつ症状も軽いように見えたのに、診察やカウンセリングを始めたとたんに患者さんが自殺してしまった、というショッキングな話を聞いたことがあります。
私がお会いしていても、そのかたの苦しみをどれだけ理解できたかわかりませんが、心理検査を見るとかなり得意、不得意の差があったそうです。
心理検査だけで何かを決めつけるのは危険なのですが、その方にはことばにされなかった、相当の生きづらさがあったのだろう、と想像します。

このような悩みをどうしていったらいいでしょう。
まずはとにかく、じっくり時間をともにするところから始めるしかありません。
いままでのことを詳しくお聞きすることで今後の役に立てたいところですが、つらい思いをされてきたため、過去を振り返ると傷つきがよみがえって苦しくなることがあり、慎重である必要があります。
ある部分は、少量の薬でかなり楽になる場合があります。
なにか得意分野を伸ばせると自信がつくこともあります。
またちょっとしたきっかけで、信頼できる仲間ができることもあります。
いわゆるフリースペースのようなところで、一緒にゲームをやったメンバーと仲良くなり、毎日が楽しくなったという方は少なくありません。
クラスメイトとうまくいかず、ひきこもっていたかたが、大好きなアーティストのライブに参加して、話と気の合う仲間ができた、と話された方がいました。
このような形で展望が開け、別人のように表情が明るくなるかたも少なくありません。
ゆっくり、じっくり、ご相談しながら、ひとそれぞれにあった生き方をご一緒に見つけていけるとよいと思います。